それは、朝の慌ただしい時間帯のことでした。漏水した水道修理を排水口を交換した猪名川町で寝ぼけ眼をこすりながら洗面所に向かい、歯を磨こうと蛇口をひねった、まさにその瞬間。私は、思わず「うわっ」と声を上げて後ずさりしました。いつもなら透明なはずの水が、まるで血のように赤く濁っていたのです。いや、血というよりは、錆びた鉄の色。その禍々しい液体は、白い陶器の洗面ボウルの中で、不気味な渦を巻いていました。 しばらく水を出しっぱなしにしていると、その赤みは徐々に薄れ、やがていつもの透明な水に戻りました。しかし、一度見てしまったあの光景は、私の心に大きな不安の染みを残しました。甲賀市から台所専門チームによるキッチントラブルでこの水を飲んでも大丈夫なのか。そして、この家は、一体どうなってしまっているのか。それは、長年この家に住み、当たり前のように享受してきた「安全な水」という信頼が、根底から揺らいだ瞬間でした。 いわゆる「赤水」と呼ばれるこの現象は、その見た目のインパクトとは裏腹に、実は多くの家庭で起こりうる、非常にポピュラーな水道トラブルの一つです。その主な原因は、家庭内に張り巡らされた「水道管の錆び」。特に、築年数の古い建物では、現在主流の樹脂製の管ではなく、鉄製の水道管が使われていることが多く、これが長年の使用で内部が錆びつき、その錆が水の勢いで剥がれ落ちることで、赤水となって蛇口から出てくるのです。 特に、朝一番のように、水道管の中に水が長時間滞留した後に水を出すと、錆が濃縮されて出てきやすくなります。また、近隣で水道工事があった際にも、水の流れや水圧が急激に変化することで、管の内側に付着していた錆が一気に剥がれ落ち、一時的に赤水が発生することがあります。 健康への影響も気になるところですが、厚生労働省によれば、鉄分は人体にとって必須のミネラルであり、水道水に含まれる程度の鉄分を一時的に摂取しても、健康上、直ちに重大な問題を引き起こすことはないとされています。しかし、それはあくまで「一時的に」の話です。赤水は、味や臭いに不快感を伴うだけでなく、洗濯物(特に白い衣類)にシミをつけたり、給湯器や食洗機といった水を使う家電製品のフィルターを詰まらせ、故障の原因になったりする、実生活上の大きな問題を引き起こします。 私がまず取った行動は、原因が我が家にあるのか、それとも地域全体の問題なのかを切り分けることでした。私は近隣の家に住む友人に連絡を取り、「今、水道の水、濁ってない?」と尋ねてみました。もし、近隣一帯で同時に赤水が発生しているのであれば、それは水道本管の工事などが原因である可能性が高く、時間が経てば自然に解消されることが期待できます。しかし、友人の答えは「ううん、うちは普通だよ」。この瞬間、問題の原因が、我が家の内部にあることがほぼ確定しました。 赤水問題の根本的な解決策は、原因となっている古い水道管を、錆びない樹脂製の管などに交換する「配管更新工事」しかありません。しかし、これは壁や床を剥がす大掛かりなリフォームとなり、費用も高額になります。すぐに決断できることではありません。 そこで、当面の対策として、私はいくつかの自衛策を講じることにしました。まず、朝一番に水を使う際は、しばらく「捨て水」をする習慣をつけました。洗面所やキッチンで数分間水を流しっぱなしにし、赤水が出きってから、飲み水や調理に使うようにするのです。水道代は少々もったいないですが、安全には代えられません。また、浄水器の設置も検討しました。蛇口直結型の簡易なものでも、錆びや微細なゴミを取り除く効果は十分に期待できます。 この赤水トラブルは、私に、普段は意識することすらない、家の「血管」とも言える水道管の存在を、強烈に意識させる出来事となりました。壁や床の下で、私たちの生活を静かに支え続けてくれている配管たち。しかし、彼らもまた、人間と同じように、時と共に老いていくのです。蛇口から流れ出る赤い水は、単なる不快な現象ではありません。それは、老いた水道管が、その限界を知らせるために流している、悲鳴の涙なのかもしれません。その声なき声に耳を傾け、適切なメンテナンスや将来的なリフォーム計画を考えること。それが、安全で快適な暮らしを未来へと繋いでいくために、私たち住人に課せられた責任なのだと、私は痛感したのです。