私たちゴミ屋敷専門の清掃業者が対峙する現場の中でも、最も過酷で危険を伴うのが、「天井までゴミが達している家」です。ドアを数センチ開けるのがやっと、という状況から私たちの仕事は始まります。その隙間から流れ出すのは、言葉では表現しがたい、腐敗とカビと汚物が混じり合った強烈な悪臭。防毒マスクをしていても、吐き気を催すほどのものです。最初の作業は、玄関周りのゴミを少しずつかき出し、人が一人通れるだけの「道」を作ること。しかし、この作業がすでに命がけです。ゴミの山は、一見すると安定しているように見えても、ジェンガのように絶妙なバランスで成り立っているだけ。一つゴミを動かしただけで、天井からゴミの雪崩が発生し、作業員が生き埋めになる危険と常に隣り合わせなのです。そのため、私たちは必ずヘルメットを着用し、ゴミの層を上から慎重に崩していく、という鉄則を守ります。中に入ると、そこは異次元の世界です。何年も前の新聞、未開封の食品、おびただしい数のペットボトルや空き缶。そして、その層の間には、ゴキブリやネズミの巣がいくつも作られ、床には正体不明の液体が溜まっています。私たちは、ゴミをただ運び出すだけではありません。その中から、通帳や現金、貴金属といった貴重品や、写真などの思い出の品を、依頼者のために見つけ出すという重要な使命も担っています。ゴミと貴重品を瞬時に見分ける、長年の経験と勘が試される瞬間です。全てのゴミを搬出し、何年かぶりに床が見えた時、私たちは本当の戦いが始まることを知っています。長年の湿気とゴミの重みで、床は腐り、壁にはカビが根を張っています。ここから、特殊な薬剤を使った徹底的な消毒、殺菌、そしてオゾン脱臭機を用いた消臭作業が始まります。天井までのゴミ屋敷の片付けは、単なる掃除ではありません。それは、危険と向き合い、失われた空間と安全を取り戻すための、専門技術を結集したレスキュー活動なのです。