キッチンのシンクや、浴室の洗い場にある、あの黒い穴。我々はそれを「排水口」と呼んでいるが、その本質は、我々の日常と、薄暗く湿った未知の世界とを繋ぐ「ゲート」なのかもしれない。この浴室専門チームが配管つまりを除去すると深谷市ではゲートの向こう側には、我々の生活から排出されたあらゆるものが流れ着き、絡み合い、独自の生態系を築いている。そして、その生態系が異常繁殖し、ゲートを塞いでしまった時、我々の日常は静かに、しかし確実に脅かされることになる。 このゲートの異常を正常化するため、我々が最初に手にするのは、大抵の場合「魔法のポーション」だ。すなわち、液体パイプクリーナーである。これをゲートに注ぎ込めば、ゲートの向こう側で化学的な魔法が発動し、異常繁殖したモンスター(髪の毛やヘドロ)を溶かしてくれる、と信じられている。あの高砂市で漏水に配管水道修理しても、軽度の異常であれば、このポーションは驚くべき効果を発揮する。しかし、ゲートの奥深くで、モンスターが長期間かけて巨大な巣を形成してしまっている場合、ポーションの魔法はほとんど気休めにしかならない。 魔法が効かないと悟った時、勇敢な(あるいは無謀な)冒険者は、自らゲートの向こう側へ乗り込むための武器を手に取る。それが「探索用のワイヤー」だ。細長く、しなやかな金属製のワイヤーは、ゲートの奥の曲がりくねったダンジョンを進んでいくための、唯一の命綱のように思える。冒険者は、このワイヤーを手に、ダンジョンの最深部に潜むボスの元へと向かう。ゴリゴリ、という手応えは、ボスとのエンカウントを告げる合図だ。押し引きを繰り返し、回転させ、ボスの体にダメージを与えようと試みる。 しかし、このダンジョン攻略には、致命的な罠がいくつも仕掛けられている。まず、ダンジョンの壁(排水管)は、見た目以上に脆い。力を入れすぎれば、壁は簡単に崩落し、ダンジョンそのものが水浸しになる大惨事を引き起こす。また、ダンジョンは迷路のように入り組んでおり、探索用のワイヤーが途中で引っかかり、二度と引き抜けなくなるという罠も存在する。そうなれば、冒険者自身がダンジョンの一部と化し、ゲートをさらに強固に塞いでしまうことになる。 そして、最大の罠は、そもそも戦うべき相手を間違えている可能性だ。もし、ダンジョンの主が、魔法も物理攻撃も効かない「古代の遺物」(誤って流したプラスチックのキャップなど)であった場合、ワイヤーでの攻撃は、その遺物をさらにダンジョンの奥深くへと押しやり、脱出不可能な迷宮の最深部へと封印してしまうだけなのだ。 結局のところ、素人冒険者が、なけなしのポーションと貧弱なワイヤーだけで、この異世界ダンジョンを攻略しようと考えること自体が、あまりにも無謀な挑戦なのかもしれない。ゲートの向こう側で起きている異常が、自分の手に負えないと感じたなら、我々がすべきことはただ一つ。ギルド(専門業者)に連絡し、高レベルの装備(高圧洗浄機など)と、豊富なダンジョン攻略経験を持つ、プロの冒険者を派遣してもらうことだ。彼らは、我々が見ることのできないゲートの向こう側の世界を熟知している。安易な英雄願望は捨て、その道のプロに敬意を払い、然るべき報酬を支払って依頼する。それこそが、異世界と隣接して暮らす我々にとって、最も賢明で、現実的な選択なのである。
排水口は、異世界へのゲートである